スピッツのアルバムを新しい順に紹介するよ① 小さな生き物(2013年)後編

小さな生き物 後編ですよ。



9.遠吠えシャッフル
シャッフルってジャンルはよく知らないんですけど、雰囲気的にはサードアルバムの「惑星のかけら」(って言っても知らない人も多いか)に入ってそうな曲。
気だるい夏の午後にプラプラしてクダを撒いてるようなイメージ。
「居場所があるのかわかんねえ美しすぎる国には」
「茶碗で飲み干すカフェラテ」
とかちょっとアウトロー気取ってるけど成りきれてない感がスピッツらしさを感じさせる。

遠吠えシャッフル

遠吠えシャッフル




10.エンドロールには早すぎる
遠吠えシャッフルに続いて実験的なディスコナンバー。らしい。
出だしから昭和な感じがします。なんだろ、昭和末期の洋楽とかこんなイメージなんだけど違うのかなあ。とにかくキラキラしていて聞いてるとちょっと恥ずかしくなってくるのはなぜだろう。そして何故かきまぐれオレンジ☆ロードを思い出したりして良くわかんない気持ちになりました。

ギターがサクサクテケテケ鳴っていて気持ちの良いテンポですすみ、打ち込みのサウンドがリズムを作っていく。どうやらベースとドラムスは不参加らしいです。
そこに正宗のスローなボーカルが乗ってきて、歌詞にあるように寒く切ない海岸の風景が目に浮かぶようです。
歌詞の内容は終わってしまいそうな恋に、未練たらしく涙する男の切ない心情を表していて、オパビニアと同じく短編小説の一節みたいなかんじです。



11.スワン
実験的な曲が3つ続いたあとは終盤に向かっていきます。3分20秒ほどの短い曲ですがスピッツ的な要素がしっかりと詰まっている。シンプルなアコースティックギターのコードストロークから始まって出だしのサビからAメロに移るあたりで各パートが入ってくるのですが、広がりよりも深みが増していく感じがする。メロディーはどこかクラシック音楽を思い起こさせるような落ち着きのある美しさを持っています。

このアルバムの曲は全体的に喪失と再生がテーマになっていると思うのですが、この曲でもどうしようもない喪失感と孤独を感じる内容になっています。

「森が深すぎて時々不安になる 指で穴開けたら そこにはまだ世界があるかな」
「助けがほしいような怖い夢のあとで 呼吸整えて 記憶をたどった君の笑顔まで」

後ろで流れる演奏がまた素晴らしく、演奏とメロディーと歌詞とがリンクして喪失や孤独や悲しみをあますところなく表現していて、歌詞のとおり聴く人を深い森の中へと迷い込ませる。僕はこれを聴いていて村上春樹の『ノルウェイの森』を思い出しました。

スワン

スワン


12.潮騒ちゃん
なぜ「潮騒」に「ちゃん」をつけたのか。正統派の前曲から突然にぎやかで楽しげな変調に戸惑いを覚えながらもつい口ずさんでしまいそうになる一曲です。何も考えずに遊びのある演奏や歌詞を素直に楽しむのが良いかも。

「偉大ななんかがいるのなら ひとまずほっといてくださいませんか」
「自力で古ぼけた船を 沖に出してみたいんです」

神様がいたとしても構ってくれるな、自分で何とか沖に出ていくから、と。良いですよね。ちょっとおどけた感じながらも何とか自力でするという決意の曲でもあります。

潮騒ちゃん

潮騒ちゃん


13.僕はきっと旅に出る
このアルバムの最後はこの曲。これを最後に持ってくるというそのセンスが素晴らしい。スピッツがこのアルバムで伝えたかったことの全てが詰まっている。そんなラストナンバーです。
イントロの印象的なピアノ?の音から始まってだんだんとテンションがあがって行き、ラストでは「羽ばたいていくその瞬間」を表現しています。歌詞では表しきれない期待感と高揚感を演奏で表現しきっているところがすごい。これを聞いているとスピッツがどうしてバンドをやっているのかがわかる気がします。
曲調とはうらはらに「朝の陽ざしを避けながら 裏道選んで歩いたり 指の汚れが落ちなくて 長いこと水であらったり」するなど、けっして前向きではないものの、それでも「僕はきっと旅に出る」と言ってるあたりは、1曲目の「未来コオロギ」の「消したいしるし少しの工夫でも輝く証に変えてく」という歌詞とリンクして、このアルバムが傷ついた人に向ける応援歌であることを物語っています。

僕はきっと旅に出る

僕はきっと旅に出る


以上